伊豆 老舗旅館 西伊豆土肥温泉 牧水荘土肥館の板長、自慢の料理

17歳で包丁握り、はや35年、土肥館の板場を任されて20年。

そんな私の忘れられない思い出・・・



板場を任されてまだ間もないころのある晩、 お客様の料理に追われる板場に客室係の女性から 「料理長!お客様がお呼びです」 と声がかかりました。えっクレーム?と内心ドキドキしながら、どうしたのか客室係に聞きましたが「どうしても料理を作った人を呼んでください」と・・・

人前にあまり出る事のない私ですから、
その時はとても緊張して客室に伺ったのをよく覚えています。 お部屋に入ると、ご両親と娘様の三名お客様。 テーブルにはまだ手を付けていない料理がいくつかあります。お料理がお気に召さなかったのと思い、お詫びしようとしたその時・・・


「こんなにおいしいお料理ありがとうございます。」
「父は退院したばかりで、あまり多くの食事をとる事が出来ないのですが、折角の御馳走を残しては作ってくれた方に申し訳ないと言って、聞かないのでお礼を言ってはどう?と、いう事でお呼びさせて頂ました。」
すると、お父様が
「こんなにおいしい料理をありがとう」「しばらくぶりに食べる喜びを感じました。」
私は、想像と違う展開に戸惑いながらもうれしくて身震いをしてしまいました。
後に聞くと、お父様は大きな手術をなされて退院されたばかりで 娘様からのお祝いの旅行でした。土肥館にいらして頂くお客様皆様に、ドラマがあります。

私たち板前も、そんなドラマのわき役として感動や喜びの瞬間に立ち会えてうれしい限りです。
あの日、はじめて感じたうれしい身震いをまたあじわいたくて毎日、板場に立っています

土肥館にお越し頂いたお客様の喜ぶ顔が見たい!

真心を込めて、素材のおいしさをを十二分に引き出したお料理を味わっていただきたい。

そのために土肥館の板前達は一皿一皿真剣に素材と向き合うことに決めました。
朝、日の出まえから板場で黙々と仕込みを行います。静まり返った早朝の板場は、日中よりひんやりとしていますが、食材と向き合っている板前の真剣な目は熱を帯びています。